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地方創生(地域活性化)取組の成果測定法の検討

  地域経営のKPI


以下の内容は2017年度日本経営診断学会大会報告「地⽅創⽣(地域活性化)の取組成果測定法の⽐較検討」の内容を元にしています。

問題意識:

現在までの「地方創生」政策推進の実際に関しては、様々な立場があろうかと思います。しかし、地域(地区)における活性化取組が、 「P D C A サイクル」に基づいて、自律的、継続的に推進されるべきであろう、という点については、大方の意見が一致しているように思われます。

地域経営のPDCAサイクルの基盤となるのは、数値的な根拠に基づく政策立案(EBPM)です。地域住民や行政が地域政策の良し悪しを判断するためのエビデンス(根拠)の重要性は高まっているのですが、そのために用意されている測定指標(KPI)は果たして十分といえるでしょうか?

KPI選びの難しさ:

この問題については既に多くの指摘がなされています。その一つは比較可能性の薄弱さです。中心市街地の通行量や観光地の入込数は、地域の重要なKPIとなります。他国には、そうした数字が多いのか少ないのか評価の判断材料のために、全国統一的な測定システムを用意したり、週次でランキングを公表するところがあります。しかし残念ながら未だ国内では、そこまで整備が進んでいませんので、他地域との比較やベンチマーキングに用いるのは容易とはいえません。

もちろん国勢調査や経済センサスに代表される公的統計に拠れば、客観的な自治体間比較が出来るのですが、こうした統計は、集計単位や測定間隔の点から、中長期にわたる構造的問題のような大きなテーマを分析する用途には向いているのですが、具体的な施策や地域の取り組みのそれぞれを検証するには、やや大雑把に過ぎる面があります。

取組成果の測定法の検討:

そこで、KPIの補助指標、関連指標となりそうな指標を検討することにしました。先行研究や政府による調査リストをもとに、以下の3種の統計表を選定しました。

統計表 入手可能性 測定間隔 空間集計単位
農業センサス(農業販売額) △ 5年 ◎ 全国12,000区分
住民税課税データ ◎ 1年 △ 市区町村
公示地価データ ◎ 1年 ◎ 全国38,000地点


これらの統計表は全て継続的に公開されていますので、過年度や他地域のデータも含めて容易に入手・加工することが可能です。

住民税データと公示地価データは、毎年測定(集計)されていますので、中長期的な変動とともに足元の状況を確認することが出来ます。

農業センサスは、農村集落の分析・研究ために旧行政界(昭和25年当時の市町村境界)での集計がなされている点にアドバンテージがあります。全国を現行の市町村よりも小さな120,000以上の空間に分解していますので、小地域における活動のような地域や地区の取り組み成果を反映している可能性があります。

公示地価データは、これに準じる都道府県地価調査と併せると住宅地と商業地を中心に全国で約38,000地点にも及ぶ膨大な地域情報を有しています。

これら指標の有用性の検証:

指標の有用性を確認するために、地域活性化の先進地域群とその他の地域群において、指標が示す数値に違いがあるかどうか、統計的に確認しました。地域活性化事例群としては、内閣府による「地方創生総合情報サイト:地方創生に向けた事例集」に取り上げられた基礎自治体群を採用しました。また、それ以外の基礎自治体のうち政令市以外のものを対照群として、二群の平均値の差の検定を行いました。結果として、農業センサスと、公示地価データについては、市町村より小さな集計単位を用いた統計表で、有用な結果をもたらす可能性が示されました。(詳細は大会報告梗概)

例年、実りの秋に開催される農林水産祭では、全国の優れた農林水産事業に対して、天皇杯等の三賞が各部門ごとに表彰されます。これらは、卓越した技術改善活動や経営努力に対して、これを表彰するものです。受賞者リストは、全て現在進行中の有望プロジェクトと見ることが出来ます。中には既に事業成果が明確に記載されている事業も存在します。「むらづくり部門」では、例年1件ずつ、そうした事例を見出すことが出来ます。

表彰 受賞者(農業センサスマップ) 受賞理由からの成果の抜粋
2017年度内閣総理大臣賞 からり直売所出荷者運営協議会:愛媛県喜多郡内子町旧内子町 「専業農家や若者の出荷者も増加・・・」
2016年度内閣総理大臣賞 大野地区公民館(鹿児島県垂水市大野地区) 「・・・所得の向上を図り後継者を確保している」
2015年度天皇杯 三芳町川越いも振興会(埼玉県入間郡三芳町上富地区) 「・・・収入の安定化等によって、後継者世代が多く確保」


これらの地域からは、規模は違えども、「収入増加」が「若者就業」や「後継世代の確保」に至っている、という共通イメージが見えてきます。農林業センサスの旧行政界集計データもそのことを確かに示しています。

地域や地区の取組としては優れてはいても、その成果が、自治体全体の経済や社会統計に波及するほどのインパクトには至っていないという事例は、数知れません。そうした地域経営の取組を推進していく上で、本研究が何らかの参考になれば幸いです。

また、今回利用したデータの一部を公開しています。宜しければご意見コメントをお寄せください。